今回は、日経新聞の記事「国の『負動産』引き取り5倍に」(2025年5月26日)を受けて、地方不動産の現場で日々向き合っている鑑定士としての視点を交えながら、実情と今後の対応策についてお話ししたいと思います。
目次
「負動産」とは何か?──申請数が5倍に膨らんだ現実
政府が2023年度から本格運用を始めた「相続土地国庫帰属制度」。相続しても使い道のない土地を国が引き取るという制度ですが、申請件数は前年度の約5倍に急増。制度創設当初の想定を大きく超える事態となっています。
その背景には、使い道のない山林や変形地、接道義務を満たさない宅地など、「売れない」「貸せない」「建てられない」不動産の存在があります。もはや資産ではなく、維持費・税金・管理の手間がかかる“お荷物”──いわゆる「負動産」です。
「価値ゼロ」なのか?──不動産鑑定士としての視点
とはいえ、そうした土地が本当に「無価値」なのでしょうか?
私たち不動産鑑定士の仕事は、単に価格をつけることではありません。その土地の法的制限、周辺の利用状況、インフラ整備状況、地形、地勢、そして市場ニーズを総合的に勘案し、その土地にとって最も合理的かつ経済的に有利な「最有効使用(Highest and Best Use)」を見極めることです。
たとえば、
- 築年の古いボロ空き家を、改修して宿泊施設等に転用できる場合。
- 市街化調整区域でも、隣接する用途地域との一体開発が可能なケース
- 接道義務を満たさない土地でも、隣地と合わせて共同売却できる可能性
- 権利関係が複雑で、相談できる専門家いなかった場合でも、別の代替案の可能性
こうした事例は枚挙にいとまがありません。
“負動産”とされる不動産の共通点
私の経験上、負動産とされる不動産には以下の共通点があります:
- 地元から離れた相続人が多い
- 相続登記が未了で権利関係が複雑化している
- 固定資産税評価額と市場価格の乖離が大きい
- 活用のアイデアや専門家の関与がないまま放置されている
これらの土地は、いずれも「手放したいがどうしたらいいかわからない」状態にあります。しかし、そのまま放置すれば、相続が世代をまたぐごとに法定相続人の数が増え、合意形成はさらに困難になります。
相続人の皆様へ──「放棄」の前に「評価」を
ここで声を大にしてお伝えしたいのは、「手放す前に、まず専門家に相談してほしい」ということです。
放棄や引き取りを検討する土地であっても、
- 活用余地がないか(周辺市場や法規制の再確認)
- 相続登記・共有名義や底地借地関係の整理を通じて流通に乗せられないか
- 固定資産税の見直しや減免措置が取れないか
を一度、冷静に分析する価値があります。
また、最近では地域の福祉団体やNPO、民間の業者などと連携し、「一時利用」「無償貸与」などを活用したケースも出てきています。
場合によっては弱者といわれる方々(経済的弱者、障碍者、シングルマザー、高齢者など)を収容する目的や、雇用する形態であれば、公的な補助金が出るケースもあります。
建物の耐震性とか、共有持分の解消といった、法的ハードルはあるものの、地元に根ざした利活用が新たな道を切り拓くこともあります。
最後に──不動産の“出口戦略”こそ専門家の出番です
負動産という言葉が広まりつつありますが、それは決して「土地が悪い」わけでも、「持っている人が悪い」わけでもありません。
社会構造や家族構成の変化、土地制度の硬直性、不動産市場の偏在が重なった結果なのです。だからこそ、専門性と客観性を持つ不動産鑑定士として、私はこの問題に真っすぐ向き合いたい。
「この土地、どうしたらいいか分からない」と思ったら、どうか放置せずに、一歩踏み出してください。私たちは、“負”ではなく、“未来の資産”へとつなげるお手伝いができます。
相続コンサルタント 佐藤良久
税理士・不動産鑑定士 植崎紳矢
一級建築士・宅地建物取引士 筒井知人
財務✕不動産 戦略パートナー 洲浜拓志
土地家屋調査士 築添徹也
弁護士 丸山純平
司法書士 中島美樹
【出版社】
幻冬舎

